自由のドア

島根、ローカルジャーナリズム、ときどき鉄道

ジャーナリストだからこそ、知っておきたい

運営に関わっているジャーナリスト教育センター(JCEJ)の発足記念として、2月17日から、3連続講座+ワークショップを東京都内で開催しました。

第1弾は「検索エンジンを知らずにジャーナリストは出来ない」。アカデミック・リソース・ガイド株式会社代表取締役/ACADEMIC RESOURCE GUIDE編集長の岡本真さんが、お話してくださいました。

検索と言えば、私の所属する業界では禁止用語に近い…と言うと大げさですが、ネットを頼りにすることは忌避すべきこと、という雰囲気がまだまだ漂っています(決して大きい声では言えませんが)。と言いつつも、私自身も最近はまず「ググって」ウィキペディアを参考に見ることが増えました。ランチや女子会のお店探しはまず検索からスタートです。
というように、仕事に生活に欠かせない検索なのですが、検索エンジンの仕組みと言われると、残念ながら???というわけで、今回の講座を楽しみにしていました。

岡本さんによると、検索エンジンは基本的に、研究者の論文の引用数が多いほど評価されるのと同じ仕組み、とのこと。つまり、リンクされているウェブサイトの数が多いほど重要と判断される。加えて、リンクが多いウェブサイトからリンクされていると、信頼性が高いとみられてさらに評価が高くなる。私たちが検索ボタンをクリックすると、検索エンジンがこんな作業(※実際はもっと複雑ですが)を一瞬で行い、ランキングとして表示されるそうです。

今回の講座で、重要な気付きが2つありました。

1つは、検索結果を鵜呑みにしない、信用しすぎない、ということです。アルゴリズム(計算方法)を変えれば、結果も操作できる。会場からも、某検索エンジンの批判を書いたらその検索で上位にランキングされなくなった、という発言がありました。それだけ、検索エンジン側の手の中にあるのです。「情報の安全保障を考える必要がある」という意見も出ました。ただ、ネットに批判的な立場から、ネットの情報は信頼できない、と言う人もいますが、岡本さんは、そもそも情報が信頼できるのかどうか「判断するのは自分自身では」と投げ掛けました。確かにそうです。ネットだから、新聞だから、辞典だから、必ず正しいと信じ込むのは危険です。ネットに限らず、あらゆることに通じる指摘です。

もう1つは、リンクされていなければ検索エンジンに引っかかることはない、ということです。裏返せば、どこにもリンクされず、漂っているウェブサイト、情報もたくさんある。検索エンジンは万能ではない。検索結果がすべてではないのです。

これに関連して、岡本さんが示した「情報・知識の全体像」に、はっとしました。
「all human knowlege」=人間の知は、オンウェブとオフウェブ、つまり、ウェブ上にあるものとないものに分かれ、オンウェブの一部のものしか、検索できないのです。一方のオフウェブには、媒体に残された「記録」と、人の「記憶」があります。この記憶と記録をデジタル化することで、オンウェブで検索できるようになる=他人が探し、共有できるようになる、ということです。言われてみたらその通りなのですが、これまで考えたことのない概念だったので、とても新鮮でした。

現代は、ウェブの拡大やソーシャルメディアの登場で、オンウェブの情報・知識が急速に増えているとのこと。ちょうど京大の入試問題流出で話題の「yahoo!知恵袋」も、記憶をデジタル化する狙いで設けたそうです。

そこで、ふと、思い浮かんだ光景がありました。シンポジウムなどで、パソコンを開いてキーボードをたたく参加者の姿です。Twitterでリアルタイム中継する「tsudaる」という言葉もあるわけですが、これらは、発信してオフウェブの知をデジタル化してくれる、大げさに言えば、人間の知の共有に貢献する作業でもあるということでしょうか。

先日、島根県内であったあるシンポジウムの最前列で携帯電話を操作していた人を、壇上のパネリストが「失礼だ」と、たしなめる一幕がありました。その人は、携帯のメルマガで議論の様子を紹介する、大げさに言うところの人間の知に貢献していた、というわけですが、確かに、会場内でのパソコンをはじめとしたデジタル機器の使用を不快に思う人もいます。東京では当たり前でも、島根ではまだ珍しいかもしれません。でも、発信したい、tsudaりたいこともありますよね。発信、デジタル化作業のルールやマナーについても考えてみたいな、と、脱線気味な考えも浮かびました。

JCEJは「ジャーナリスト」を、職業上の記者だけではなく、NPOや企業、自治体の広報担当、広告やPRに関わる人など、情報発信する人々と幅広くとらえています。
あらためて、期待通り「ジャーナリストだからこそ知っておくべき」というコンセプト通りの講座でした。

岡本さん、ありがとうございました!