自由のドア

島根、ローカルジャーナリズム、ときどき鉄道

島根の子は「急流」を泳げ 〜 吉川徹大阪大教授の講演

島根の子は「急流」を泳がなくてはならない。こんな刺激的な話を、聞いてきました。7月上旬、松江市の松江一中であった、大阪大人間科学部の吉川徹教授(松江市出身)の講演です。島根の子と、都会の子は、一体、何が違うのでしょうか。

どんどん仕事が変わる平成の人生

講演タイトルは「『人生ゲームのルールを学ぼう』〜2045年の自分のために」。以下、一部抜粋です。

【前提その1】仕事は子どもの夢の数だけ用意されていない。仕事は社会を回すためにある。なりたかったものになれない、何人かは自分の夢を諦めないといけない。だからこそ、現実と夢の関係を考えておく必要がある。現実だけを考えるとつまらないけど、夢を追いかけると人生を見失う。大人はあまり言いたがらないが、考えておいてほしい

【前提その2】同じ仕事を続け、昇進できた昭和の人生と比べ、平成の人生は、どんどん仕事が変わる。異動、倒産、転職、解雇。履歴書を書く回数が2倍に増えている。だからこそ、学歴=人生の切符、の重みが増しているが、切符の数は限られている。60年間使う切符を、18歳で配られる。

人間、生まれ年からは逃れられないのです。例えば、講演を聴いていた中学3年生で言えば、基本的に、全国120万人の間で仕事などを競い合う。内訳を見ると、4大進学は50万人、短大・高専は10万人、専門学校20万人、就職10万人。大卒はどこにでも行けるのに対し、専門学校はほぼその職業に就くこと、途中変更しにくいことが予想される。フリー切符=大学、に対し、目的地が書いてある切符=専門学校、というイメージ、だそうです。

「誰も教えてくれなかった」

さて、その上で、なぜ、島根の子は「急流」なのでしょうか。一つには、島根が「県を動かす人を自給自足できない」という、構造的な要因があります。全国の都道府県で最も短大や大学の数が少ない島根。2013年、4年生大学に進学する人は43・4%で、全国平均より少ないそうですが、それでも「若者の数だけ、県内大学の椅子の数と仕事の数が用意されていない」のです。県内にいては就けない職業というものが必ずあります。多くが、自宅を離れることになります。

つまり。人口流出県・島根の子は、意識しないと、どんどん、県外、都会へと流されていく急流の中にある、ということを意味しています。逆流しないと、島根には帰って来られない、のです。良いとか悪いとかではなく。吉川先生に言わせると「島根は、便利な大阪、東京で人材を育ててもらおうと、人材育成のアウトソーシング、損失覚悟で県外へ放流している」。だから、18歳の若者が出て行き、少子高齢化の要因となっています。子どもの数が少なくなっているわけではなく、流出しているのです。

このことは、大阪というか都会の子と比べれば、よりわかりやすいかもしれません。大阪(都会)の子は、自宅から通える範囲に幅広い選択肢があり、人生はいつでも、オプションのボタン押せば変更できる立場です。でも、吉川先生によると「だから、泳ぐ力=考える力が付かない、付けにくい」。逆に言うと、急流の中を泳ぐ島根の子は強くなる可能性がある。ただ、そのためにも、人生を早く考え始めた方がいい、ということです。

アンケート結果をみると、7割が県内に戻りたい、が、実際は2割程度しか戻れない、とのこと。「都市定住は思いがけない結果によることが多く、でも必ず何人かは待ち受けている」のです。吉川先生の「知らないよりは知っていた方がいい。ここにいる300人のうち、120人くらい帰って来ない。松江にいるのは18歳までだと、誰も教えてくれなかった。しっかり東京暮らすんだと思っていれば考えなければならない」という言葉が印象的でした。

最後に、解決すべきこと、として、親や子ども、教員、それぞれへのメッセージを託されました。

保護者:帰ってきたいという若者たちを、全力応援し、居場所を用意する。
子どもたち:急流=島根に戻さない力を自覚し、自分の意思で「泳ぐ」こと
教員:県民の自覚と愛着をはぐくむ教育を

私も、浜田→大阪→松江と周遊したわけですが、あまり先々のこと、ここまで考えてなかった気がします。いろんな偶然の結果であって、確かに、まあ結果オーライではあったのですが、でも、もっと考えておけばよかった、と、よく思ったものでした。ので、吉川先生の指摘には、激しく、納得です。

学歴社会のローカル・トラック―地方からの大学進学 (SEKAISHISO SEMINAR)

先生の著書「学歴社会のローカルトラック〜地方からの大学進学」は、島根の若者も登場しますが、上記のようなことを考えさせられる、めちゃいい本です。ぜひ手に取ってみてください。また、新たに「現代日本の『社会の心』も出版されたとのことです!ところで、そうそう、講演の写真を撮影するのを忘れてしまいました。超反省。

あ、最後に、個人的な思い、前提、ですが、全員が全員、島根に帰ってくるべき、くればいいとは思ってませんですよ。帰りたい人が帰れる島根、になるといいなあ、つくりたいなあ、と思っています。