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ローカルの「常識」は「非常識」という魅力〜八重山レポート3

南の離島・八重山諸島に来て、3日目となりました。前日の大まじめな議論を終え、本日は視察DAY。3日間過ごした感想としては、ワンダーな島でした、八重山諸島!驚きたくさんで素晴らしい、というニュアンス、伝わりますか!!ジャングルクルーズ、炭坑跡、陸の孤島、水牛、種子取祭。そして、何より、心のこもったおもてなし。いやー最高に楽しく、学び多かった。それでは少しずつ紹介していきます。この3日間は、見えにくくてごめんなさい、下の地図で、石垣島西表島→(地図にないけど近くの由布島)→竹富島石垣島というルートで回りました。

竹富町には、役場がない

最初にびっくりしたのは、バスでガイド役を担当してくれた竹富町役場の勝連さんがさらりと言った一言。「竹富町の役場は、石垣市にあります」。え?役場が地元にないの?? 竹富町は、9つの有人島からできています。それぞれの島同士のアクセスが悪く、結局、八重山諸島で一番アクセスのいい、石垣島石垣市に役場があるのだとか。役場の職員は、石垣市に住んでいるため、選挙権や税金の納め先は石垣市=自分が務めている竹富町の町長や議員が選べず、税金も納めていない、という、いや何というか…そんなのありなの?住んでなくても投票することはできないの?役場とか職員の定義って何?とか、いろんな疑問が一気にぶあーっと吹き上げてきました。東日本大震災のときには臨時的な措置として聞いたことがありますが、常態化している地域があるとは。ただ、役場を竹富町の中でも最大の島・西表島に移転する方針で、進んでいますが、アクセスが悪くなる他の島からは反対の声もあるとか。今後に注目。ちなみに日本であと2つ、自分の町に役場がない町があるとのことでした。

西表島では、道路の至る所にゼブラゾーンという凹凸が設けられ、車で走るとぼこぼこ音がします。これも「スピード出すな」ということかしら?と思いきや、なんと、イリオモテヤマネコに「車が来るから危ないよ」と知らせるため、だと教えてもらいました。国の特別天然記念物であるイリオモテヤマネコは、100匹程度しかいなくて、絶滅の危機があり、大切にされています。それでも、2013年はイリオモテヤマネコの交通事故が6件と「過去最悪」だったらしく、道路の下に動物専用のトンネル「ネコボックス」をつくったり(しかも105個もある!)目撃情報があるたびに近くに移動式立て看板を設置して注意喚起しているそうです。

びっくりは、まだまだありますよ。沖縄知事選の真っ最中でしたが、通常は日曜日の投票日が、竹富町では土曜日である(一度、海上のしけで開票が遅れた苦い経験があるそうです)。年中雑草が伸びるため、道路の維持管理費が大きい(除雪費がある島根の方が大変と思ってましたが、そうでもないのね)。紅葉がないため、紅葉に激しく憧れる。「へー」「へー」と言ってばかりでした。

移民と廃村、悲劇の歴史

さらに、興味を引いたのは「移民と廃村を繰り返した、悲劇の歴史があります」という説明。人口対策による強制的な移民や戦時中の疎開などで、竹富町に人が移ってきたそうですが、マラリアで家族や集落ごと全滅してしまった例も少なくないそうです。それだけではなく、時代や産業構造の変化に伴い、人が住まなくなって消滅した集落もあるとのことでした。

そんな壮絶な歴史が…と驚きつつ、ふと、不思議に思いました。一般的に、地域の悲劇やマイナス面は、積極的に話そうとしませんよね。それなのにどうして? 私の疑問に答えてくれた、勝連さんの部下の小濱さんによると、こうした地域の歴史も観光資源化しよう、と、意識的に話をしているそうなのです。昨日のブログで書いたダークツーリズムに通じるのかな。説明用のパネルも整備しています。私自身、自然の美しさや島の風景は、島根でも見慣れているので、正直さほど惹かれませんでしたが、竹富町ならではの歴史を聞くことで、ぐっと興味がわきました。綺麗に消費されていくストーリーではなく、地に足の着いた生々しい歴史、とでもいいましょうか。地元・島根と比較することで、相対化でき、学びも深くなりました。

さらに、ワンダフル!と感激したのが「西表炭鉱跡」と島内なのに船でしか行けない「陸の孤島」船浮集落に行ったときです。沖縄に炭鉱があるなんて意外でしたが、沖縄でも西表島にしかない珍しいもの。本土や朝鮮半島、台湾などから、だまされて連れてこられて、劣悪な環境で働かされていたそうです。それを、池田さんというガイドさんが、それはそれは詳しく丁寧に、説明をしてくれました。私たちの矢継ぎ早の質問にも、慌てた様子もなく、答えます。これはただ者ではない…と聞くと、地元の集落出身で、ご家族が炭鉱の関係者という。抽象的になってしまいますが、自分の言葉で語れる強さ、を感じました。池田さんの地元愛が伝わってきました。

昨日のブログでも少し触れましたが、懇親会の会場は、西表島の祖納地区の公民館。食事は、住民の手作りでした。味噌汁に牛肉が入っていて、驚きましたが、これは「牛汁」という特別なときに出すのだそうです。1時間にわたり、子どもも大人も、太鼓や民謡、踊りを次々と披露してくれ、おもてなしの心、歓迎してくれているんだなと伝わってきて、本当に嬉しくなりました。祖納公民館の館長さんをはじめとしたおじいさま方が、またかっこよくて、ご挨拶したら、なんと妹さんが松江に嫁いでおられるとか!そのほか、西表島の浦内川のジャングルクルーズや、水牛で渡った由布島など、なかなか経験できないことばかりでした。

全体を通して、竹富町の人々は、いい意味で地域の文化に、というか、地域そのものに、誇りを持っているのだと感じましたし、あらためて、それぞれの地域の人々の「当たり前」は、他の地域の人々から見れば、全然「当たり前」じゃない。これこそが、ローカルの魅力であり、観光に活用したときの可能性の大きさを感じました。

個人的ですが、これまで国内のJR全路線を制覇し、離島も含めていろんな土地を旅しています。新しいもの好きという性格もあり、もう一度訪れたいという土地は、決して多くありません。それでも、今回、祖納公民館の方々の踊りがまた見たいなあと思うし、池田さんの解説をまた聞きたいなあと思うし、心からおもてなししてくれた勝連さんと小濱さんの笑顔にまた会いたいなあと思います。珍しく、もう一回来たい!と思うのです。竹富町の皆さま、そして、このような貴重な機会をくださった境界地域研究ネットワークJAPAN(JIBSN)の皆さまに、重ねて感謝申し上げます。本当にありがとうございました!