自由のドア

島根、ローカルジャーナリズム、ときどき鉄道

行動する消費者

いやー面白かった!運営委員という立場ながら、こんな高揚感を感じたイベントでした。

3月4日に開かれたJCEJの講座&ワークショップ「日本の広告費から読み解く 企業から見たメディア」のことです。ゲストは電通総研の北原利行さんが務めてくださいました。

特に心に刺さったのは、北原さんが何度も何度も繰り返された「企業は顧客がなければ存在しない」「企業にとっては、いかに売れるかが重要」。普段、編集サイドにいるために意識が向きにくいのが正直なところなのですが、あらためて顧客(消費者)が主役なのだと痛感しました。

北原さんはまず、日本の2010年の広告費の説明から入りました。大枠で言えば、媒体別に見て、マス媒体の広告費は長期的に低落傾向。一昨年、マスコミ4媒体の広告費が50%を切ったそうです。ネットは伸びています。ただ、広告主が一致しているわけではないので、俗に言われる「マスコミの広告をネットが奪った」という見立ては当てはまらない。広告が少なくなったのではなく、単価の安いネットの登場でこれまで広告を出せなかった人が出ている側面もある。その上で言えることは、中でも落ち込んでいる新聞や雑誌は、企業からすると、あまり魅力的な媒体ではなくなってきている、ということだそうです。企業にとっては売りに直結が切実、とし、広告流したからといって売れるとは限らず、店頭に行かなければ買えないということを考えれば、店頭に近い広告は強い、広告即購買につながるのは魅力的と解説しました。

さらに、広告主にとっての広告の役割の変化についても触れました。厳しい時代だけに、広告効果にシビアな視線が注がれ、ピンポイントに刺さる広告を意識。マーケティング戦略の効果を客観的に把握し、より効果の高い施策への投資を拡大しようという「マーケティングROI」の観点から、より効果が把握しやすいメディアプランニングが起こっているそうです。テレビは視聴率、ネットならクリック。効果が分かりやすい方に、企業は流れるのです。また、企業内で、広告宣伝費から販売促進費へのシフトが起こっているとのことでした。

ふと、新聞業界に当てはめて考えてみると、効果が把握できる指標がありません。購読しているからと言って、その広告を必ず見ているとは限らない、つまり、厳密には、購読者数=広告が届いた数ではないのです。店頭への距離も遠い。企業の広告宣伝費は販売促進費の半分であるというデータも示され、そんなに基盤の弱い広告費の中で、さらに現時点では強みも見当たらない新聞業界の今後に気持ちが暗くなってしまいました。

続いて、北原さんは、視点を消費者側に移しました。メディアが多様化し、昔は一方通行だったものが、インタラクティブになり、消費者が積極的にメディアを選び、情報を作成し、発信する。「行動する消費者」の登場です。ほしい情報を選ぶ主役は「あなた」の時代。一方で、関係ないと思われるとメッセージは瞬時に不要と判断され、浸透しない。いかに「関係ある」と感じてもらうかが、最初の入り口なのですね。

こうした中、現代の広告で重要な視点が「コンタクトポイント」だそうです。 時間、場所、場面、気分の4つのコンタクトポイントで、マッチングの精度を高める必要がある。メディア側からみれば、数あるコンタクトポイントの中でどういう役割なのか説明しないと、広告主にも消費者にも、選んでもらえないという状況です。企業は、従来ターゲットに到達するためにメディアの予算配分を考えていた「メディアミックス」ではなく、ターゲットを動かすための導線(シナリオ)づくりを考える「クロスメディア戦略」に移っているという話も勉強になりました。

衝撃的だったのは、消費者の変化。自宅内メディアの接触時間の変化の分析では、テレビは変わらないものの、ラジオ、新聞、雑誌が減り、パソコンやモバイルが増えている。新聞はほぼ全世代が接触時間を減らしていました。今やモバイルを考えないと、届かない。紙に固執せず、どう組み合わせて届けるかがキーなのです。特に、携帯と切っても切り離せない若い世代にとっては、たとえフルサービスでなくても、入り口くらいは用意していないと相手にしてくれない、自分たちに関係ないと判断される、というくだりは、印象的でした。

実際、細かく見ると、世代によって情報の接し方が違う点は見逃せません。パソコン普及とともに育った1976年生まれの76世代は、パソコンが万能で「くつろぎ・つながり・書く道具」なのに対し、1986年生まれの86世代はモバイルが「書く手段で・友人のリアルであり・つながり・通話回帰」なのだそう。ちょうど76世代の私にはリアルに納得できました。(もちろん全員に当てはまるわけではないとは思いますが)。私はまだまだモバイルは、画面が小さかったり、文字が打ちにくかったり、という感じで、パソコンの方がなじんでいます。また、世代によってニュースの意味も変化しているとのことで、若い世代、自分に関係していないとニュースとは思わず、政治とか経済、国際情勢は世間の出来事、という感じなのだと言われ、興味深く感じました。広告も、身近な人につながっていないと、広告じゃない、ということにもなるのでしょうか。

続いて、ワークショップです。ipadを「売れ」と言われたとき、どんなメディアに、どんな広告を打ちますか、というもの。早速、4人1組で議論を始めました。

私は、パソコンよりも立ち上げや操作が簡単なため、もっとシニア層に売り込めると考えていました。ただ、シニア層は、なかなか購買に結びつけることが難しい。私自身が両親に贈ってもいいかなと考えたことがあったことから、シニア層の息子娘世代&孫世代をターゲットに、おじいちゃんとおばあちゃんに贈ろうという「敬老の日」キャンペーンを展開する案を考えました。ipadを持つおじいちゃんおばあちゃんがカッコイイというイメージを広げるため、例えば、レオンやマリソルなど、40から50歳代向けの雑誌や、小学6年生といった子ども向け雑誌、また「いきいき」といったシニア向け雑誌への広告を出す案でした。

同じ班のメンバーからは、価格の4万円を出せる忙しい人が買える、という想定で、医者や弁護士に実際に使ってもらう案や、美容室に置いて時間待ちの女性らに使ってもらう案が出ました。その中で、ipadの特長は、恋人同士などで一緒に見ることができる、という指摘があり、銀座の高級クラブに配り、くっついて遊べるゲームアプリなどがあって、徐々に「持ってこないとダメ」「持っている人だけ同伴、アフター可」みたいなルールにしていけば、財力のある男の人たちはこぞって買うのでは…という案で盛り上がりました。

ほかの班の発表では、1人飲みの居酒屋に置くことや、家族の絆を全面に押しだしてシニア層をターゲットにするものなどがありました。それぞれ興味深かったのですが、実物を体験する提案が多く、メディアはどんな「広告」の枠を用意すればいいのか、という疑問も。後のtwitterで、4つのコンタクトポイントを使う話があまりなく、消費者が明確に利用して良さを体感できる「接点」に重きを置いた話が多かった、との指摘ももらい、直前に学んだことがすっぽり抜け落ちていたなあと反省もありました。

あらためて、マスの時代は終わり、マスメディアから一方的に与えてもらうのではなく、私たちがたくさんのメディアから選ぶ時代、主権は消費者になったのだと再認識しました。

やはり、プロの方の解説は違う!エッセンスをとらえ、分かりやすく話してくださるからなのでしょう。
北原さん、ありがとうございました。