自由のドア

島根、ローカルジャーナリズム、ときどき鉄道

2012年巡り合えてよかった!5冊

ようやく今年のお仕事も落ち着いたので、今日から三が日までの間、ブログを書こうと思います!

まずは、読んだ本の整理。2012年は、あまり本を読めていません。激しく反省。数えたら30冊でした。。。来年は目指せ50冊!まあとにかくそういう中で、印象に残っている、というか、この本に巡り合えてよかった!と感動した本5冊をまとめたいと思います。

基本的に感動するとすぐ「ブクログ」に書いてしまう癖があるので、それをまとめただけです。その直後のコーフンっぷりがそのままで、後で読み返すとちょっぴり恥ずかしいですが、編集するのも何なので(笑)ちなみに、2012年に出版されたものばかりではありません。私が2012年に巡り合ったというだけですので、ご注意くださいませ〜。このほか、仕事柄、島根関係本もたくさん読んでいて、感動したものがあるのですが、それはあらためて。


フランスとイタリアの「老練愛書家」2人よる対談。タイトルからみて、紙の書物は絶滅するのか?という問題意識で手に取りましたが、それに関しての2人の答えは一貫していて、それよりも、ありとあらゆる情報が入手可能になった現代、私たちはどう情報と向き合ったらいいのか、本質的な示唆に富んだ視点が盛りだくさんで学びが多かったです。

・これから求められるのは、考えをまとめて結論を導く技術、真偽を確かめられない情報をチェックする方法
・書くという行為は常に危険を伴ってきたし、今でも変わらない
・過去がそのままの姿で我々のもとに届くということはまずない
・我々自身が情報提供者になり、善意で悪気なしに情報をねつ造することだってある。修正するには、延々と検証しつづけるしかないが、苦労が多すぎるので、結果的に野放しになる
・映像は人を欺く
・自己顕示は何によっても止めることができない

そのほか、面白かったのは、インターネットの方が先に姿を消す可能性だってある、とか、そもそも私たちが学んだのは傑作や偉大な歴史に偏っていて、それも「敵や馬鹿や間抜けが書いた」結果であるものが多いし、それよりも「珍説愚説」の方が豊穣で示唆に富む、とか。
こうして当たり前に、前提としてとらえてきたことを逆から見る気持ちよさ、というか、常識が揺さぶられる、何とも言えない爽快感を味わいました。

もう一つ、衝撃だったのが「誤りとか、思い違いとか、ばかばかしさとか、そういうものにどうしようもなく惹かれるんです。くだらないことが大好きなんです」と言い切っていたお二方。珍説や嘘が書いてある本を集めているのだそうです。その潔さといったら。

全体を通して、世界の広さと深さ、そして希望を感じさせてくれる本でした。


西川美和好きにとって、西川美和の魅力に近づける、たまらない一冊。100の質問に対する西川美和の答えの面白さと言ったら。惚れてまうやないか!笑
本人が書いた文を読んでいても、謙虚というと、本人も違うと言うけれど、でも、いい意味での自分や作品への自信のなさ、というか、疑いを持つ(傲慢にならない)、という姿勢があって、それは、作り手にとって大切なことだと思った。
西川美和の作品は、小さな疑問をすくいとって、なぜだろうと目をそらさずに突き詰めてつくっていて、答えも出さないところが面白くて、好き。そして、基本的に、世界の広さと深さ、人間の不可思議さ、複雑さを肯定しているのだろうなあ。本人も「ややこしいってすばらしい!」って言ってる。
でも、やっぱりわかりやすい方が楽だし、わからないことと向き合うのは居心地悪いから、逃げたくなると思うんだけど、そこをすごく真摯に向き合って、孤独から逃げずに、丁寧に表現している感じに、激しく憧れる。

「社会的な課題の解決と同時に、新たな価値を創出する画期的な仕組み」を創った実例を、世界中から探してきて載せているこの本。一番感動したのは、住民が読みたい記事に出資するローカルジャーナリズム「スポット・アス」。自分で取材したい、あるいはジャーナリストに取材してほしいテーマを誰でも提案することができるという。ニュースのテーマや資金調達では住民参加型で、情報収集から配信までは(プロの)ジャーナリストが担う形 。これから誰がジャーナリスト(ジャーナリズム)を支えるのか、という問題意識を持っているので、こういうやり方もあるのか!と感動。トラ男や選挙に行こうキャンペーン、サッカーソケットも面白かった。四万十川新聞バッグも!


「はじめに」に書いてある「人の話を聞くというのはおもしろいものです。人の話にはその人の人生がくっついているのです」という言葉通りの本。

森の名人たちの話し言葉が方言も含めてそのまま綴られており、その端々から、森や自然への慈しみ、そして自分の人生をいかに力強く、誇り高く生きているかがにじみでている。

貴重な技や知恵も満載。炭材として桜、椿、杉、柳、それぞれがどんな灰になるのか、どんな風に燃えるのかや、昔から伝わっている木の切り方や運搬の方法も、知らないことの連続ですごかった。あとは指物師の技術も。時代に逆らえなくて、消えゆくものもあるかもしれないし、後書きで名人が亡くなったことが申し添えてあると切なかったけど、人間だから、いつかは死ぬから、でもこういう形ででも記録されて、そして私はこの本に出会うことができて、よかった。

そのほか印象に残った人と言葉。
□カンジキづくり(北海道黒松内町
「カンジキをはじめて見たとき、人間と植物とが大自然の教えのなかでともに生きている、共存しているんだなぁという印象を持った。…カンジキづくりは自分の信念としてやっていた」
「田舎のいいところは、自然と解けあいながら、手を結びながら生きていくということ。これはもう素晴らしいことだ。これ以上のことはないと思う。田舎に住んでいて不自由なことはなにひとつない。食べ物は豊富。だから健康。生活には大満足している」

□スギの種採り(奈良県川上村)
「木登りや種採りは、命がけ、いや、なんに対しても命がけ。一生懸命です。それが美しいんやないかな」

□竹細工(宮崎県日之影町
「やっぱ生涯、これ一本でのやっていこうと思っちょるったい。やっぱ好きじゃもんの。竹細工が」

□手橇(てぞり)、木馬=運搬技術(岐阜県飛騨市
「昔は全部が木材で動いていたから、都会よりも地方の方が豊かだったんや。ストーブとかも全部木やもんで、地方に依存していたんだ。都会の社長よりも、木を切っていた人の方が金持ちだったんやで。…山へ行って仕事をするやろ。そのときに木の陰で昼寝をするねん。熊みたいに寝床をつくって、ご飯を食べて、昼寝をするのよ、涼しいところで。そりゃもう最高の気分になるんや。いい人生だなぁって思うぞ」

□指物(長野県茅野市
「今どきのつくり方はダメだ。木を無理に使うで、木がかわいそうだ。木の気持ちを考えてやらなきゃ、いい作品もできねえわ…おらの人生を一言で言うと〝無〟だわ。今までおらはがんばってやってきたが、それでも後がつづかなきゃあ、もうなにもなくなっちまうだよ。後の世代へつづいていくのは、作品だけっちゅうことだ…しょうがねえわな。時代が時代だもの」


地方紙の大先輩である河北新報社編集委員の寺島英弥さんによる、東日本大震災の取材記録。

容赦ない現実がつづられている。津波に流され、生きのびた男性。妻を失った農家。計画避難でいつ帰ることができるのか、不安に揺れ続ける女性。それでも、自責の念に苦しむ農家は「俺には、まだ、やることが残っている」と泣きしながらダイコンの種をまいた。女性も仮設住宅の仲間と、中古の着物を生かした服づくりを始めた。わかりやすい解決策や「ハッピーエンド」はない。その中で、一人一人の日々の繰り返しに宿る小さな希望や変化を、丁寧にすくいとっている。

河北新報の連載と並行して書かれた寺島さんのブログ「余震の中で新聞を作る」が基になっている。新聞連載と異なり、「私」を主語に、現場を訪ねた経緯、情景や会話、質問の流れもありのままに「ノートに書いたすべてを書きつくしている」という。多い回は1万字にも上る。仕事後、徹夜して書き上げることもあったという。

あとがきに、これからの心の支えになる一文があった。「その場にとどまり、当事者と同じ時間を生きるのが、地方紙記者の仕事の本質。『Keep journal(書き、記録し続けよ)』」。


<番外・再読編>

珍しく、再読。山本謙一が好きです。いつも、大切なメッセージが伝わってくるから。
山本謙一の中でも、最初に出会ったこの本は、衝撃でした。ぱらぱらと眺めただけなのに、あまりの面白さに、引き込まれて、そのまま読破してしまったのを思い出します。

今回一番気に入ったのは、最初の方で利休が言い切る「天下をうごかしているのは、武力と銭金だけではない。美しいものにも、力がある」。「美しいもの」が好きで、美とは何かに興味がある私にとって「本当にその通り!」と、励まされる一文でした。

ここで利休が言う美とは何でしょうか、読み進むうちに、少しずつ、答えがわかります。

鄙びた草庵のなかにある艶やかさ。
冷ややかな雪のなかの命の芽吹き。
命だ。
侘びた枯(からび)のなかにある燃え立つ命の美しさを愛してきた。

燃え立つ命の艶やかさ、美しさ。これも、私の中ではストンと落ちる、というか、激しく共感できる部分でした。そのほかも、人の心にある「毒」や「むさぼり」を肯定し、それをいかに志に高めるかが大切だ、と利休が説くのも、深くて、お気に入りです。

もちろん、小説としても、利休の切腹から、過去へとさかのぼっていく珍しい構成ですが、ぐいぐいと引き込まれて一気に読めます。この後、山本謙一の本を何冊も読みましたが、やっぱり「利休にたずねよ」の完成度と迫力は、ぬきんでている気がします。もちろん、他の本も、面白くて、メッセージがあって、大好きですが!

以上、お付き合いくださってありがとうございました。2012年の振り返りも書くぞー。明日(多分、笑)!